お知らせ
2025年6月24日
「肩こりの原因は脳にあった?最新研究に基づく徹底解説」
1-1. 肩こりは病気?それとも生活習慣の結果?
厚生労働省によると、「肩こり」は自覚症状の中でも女性1位、男性でも上位に位置する常連項目です(国民生活基礎調査2022年)。しかしながら、肩こりという言葉は病名ではなく、あくまで症状名です。ICD(国際疾病分類)でも「肩こり」は明確な病態分類を持たず、一般的には筋肉の緊張、血行不良、姿勢不良、自律神経の乱れなどが複合して引き起こされるとされています。
現代ではスマートフォンやパソコン作業の増加に伴い、いわゆる「ストレートネック」や「前肩」など、構造的な歪みが長時間持続することが肩こりの要因として注目されています。
1-2. コリの感覚は脳で生まれる?
最近の研究では、「コリ」は単に筋肉の問題だけではなく、「脳の知覚」によって感じることが指摘されています。特に慢性的な肩こりにおいては、末梢組織の異常が解消されても「痛み」が継続する現象があり、これを「中枢性感作」と呼びます(Woolf CJ, Neuron, 2011)。つまり、肩そのものに異常がなくても、脳が「痛い」「つらい」と判断し続けてしまう状態です。
2-1. 筋膜の滑走障害と疼痛感受性
筋肉を包む筋膜は、近年の研究で「第2の神経ネットワーク」とも呼ばれ、無数の神経終末と機械受容器を持つことがわかってきました。特に肩甲骨周囲筋(僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋)では、長時間の同一姿勢や過緊張により筋膜の滑走性が低下し、組織間癒着が起こると「硬結(トリガーポイント)」が形成されやすくなります(Stecco C et al., Surg Radiol Anat, 2018)。
この硬結が自律神経系を介して交感神経を刺激し、痛覚過敏を引き起こすことが、肩こりの慢性化に関係しているとされています。
2-2. 筋膜リリースの科学的エビデンス
筋膜リリースとは、硬結や癒着した筋膜を手技や器具を用いて解放する施術法です。2019年に発表されたメタ分析によると、筋膜リリースは肩こり症状の軽減に有効であり、即時的かつ短期的な疼痛緩和効果が認められました(Wilke J et al., J Bodyw Mov Ther, 2019)。
3-1. 慢性痛に関わる脳の部位
fMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いた研究によって、慢性の肩こりを訴える患者では、脳の前帯状皮質(ACC)や島皮質、扁桃体など、「痛みの情動的評価」に関わる部位の活動亢進が見られたことが報告されています(Apkarian AV et al., Nat Rev Neurosci, 2009)。
つまり、肩こりは単なる局所的な筋肉痛ではなく、ストレスや不安といった心理的因子と強くリンクしている「脳由来の痛み」の側面を持っているのです。
3-2. 注意の集中と疼痛の関連性
ある研究では、慢性痛の患者が「痛みに意識を集中しすぎる」ことで症状が強くなる傾向があることも報告されています(Moseley GL et al., Pain, 2004)。そのため、心理療法やマインドフルネス、さらには整体における「安心感」も症状緩和に寄与する可能性があります。
4-1. 身体構造 × 自律神経 × 心理要因
2020年に欧州疼痛学会が発表したレビューでは、肩こりは「構造的要因」「自律神経系の変調」「心理的ストレス」の3つが複雑に絡み合う「多因子性症候群」として捉えるべきとされています(Nijs J et al., Eur J Pain, 2020)。
そのため、「姿勢だけ整えても治らない」「ストレス解消だけでも限界がある」という声に、整体・理学療法・心理的アプローチを複合した統合ケアが必要だという考え方が主流になってきました。
4-2. WHOが推奨する統合的アプローチ
WHO(世界保健機関)では、慢性疼痛に対して「生物‐心理‐社会モデル(Bio-Psycho-Social Model)」をベースにした医療介入を推奨しています。これは、身体的構造(筋・骨格)、心理的要素(ストレス・不安)、社会的要因(職場環境・家庭)の3つを総合的に評価・対処するものです。
整体院でも、この多角的視点を活かすことができれば、より根本的かつ持続的な症状緩和が期待されます。
肩こりは単なる筋肉疲労ではなく、筋膜・自律神経・心理的ストレスなど多層的な要因が影響し合って起こる慢性疼痛です。そして、その痛みや不快感は「脳」で感じているという点が、近年の神経科学研究で明らかになってきました。
「マッサージしてもすぐ戻る」「根本改善にならない」と感じている方こそ、こうした最新の知見を基にした整体アプローチが必要です。姿勢だけでなく、自律神経の状態や心理ストレスの影響も視野に入れたケアを受けてみてはいかがでしょうか。